注意の現象と脳の働き
皆さん、こんにちは。リバネスの前田です。
前回“注意を払う”って一体どういうこと?」は、物事に注意を払うことで私たちの見たり聞いたりする経験がどういう風に変わるのか、という点に注目してお話をしました。今回は注意を払うことによって、私たちの脳の中ではどんな変化がおこっているか、という点についてお話ししてみたいと思います。
■さまざまなかたち、性質へ向けられる注意
注意を払うということが、実際脳の働きにどういった影響をおよぼしているかを研究する方法には、例えば下のような観察を行うものがあります。
Corbetta たち(1991)は被験者に下のような図をA、B と順番に見せて、AとBでは何が違うかを問いました。これらの絵には3種類の要素(色、形、動きのスピード)が含まれています。例えば、下の図は色が赤から黄色に変化し、形は四角から長方形へと変化、最後に動きのスピードが遅い状態から速い状態に変化している様子を示しています。

被験者はA、Bの図を見る前に、以下の2つの課題うちのどちらかひとつが渡されました。課題(1)は色、形、または動きのうちのひとつの要素について、AとBの違いを答えさせるもの。課題(2)は3要素の全ての違いについて答えなさいというものでした。
結果は、課題(2)で3要素全てについて違いを答えた場合、課題(1)でどの要素について違いを答えた場合よりも成績が悪い、というものでした。つまり被験者は、色、形、動きの3要素に同時に注目していても、結果的にはひとつの要素だけに注目していた時と比べると成績が悪かったということになります。
ここから、注意を払うにもどうやら限界があるという事が推測できるかと思います。逆に言うと、前回紹介したカクテルパーティ効果(Cherry, 1953)からもわかるように、たくさんの情報があふれている中、注意を部分部分に払うことで一部分の情報は確実に処理している、ということがうかがえます。
■脳の中はなにがおこっているの?
この実験では、(1)と(2)の条件の元での正答率を比較するだけでなく、PETスキャンという脳の活動を撮影する技術をつかって、(1)と(2)において被験者の脳の働き方はなにが違っているかを比較しました。
脳の中の細胞は同じ特徴を持つものが同じ場所に集まるように構成されています。例えば、色の情報を処理する細胞は第1次視覚野の4C-beta と呼ばれる層や第4次視覚野に集まり、動きの情報を処理する細胞は脳の中で第1次視覚野の4C-alpha層と側頭葉内側部などに集まっています。
実は、脳の研究者たちは過去の様々な研究から脳のどの部分の細胞がどういった情報を処理しているか、ということについて明らかにしてきました。
さてCorbettaたちが(1)の色、形、または動きのひとつの要素について違いを答えた時と(2)の3要素すべてについて違いを答えた時での脳の活動を比較してみた時、(1)の時は課題に応じて色、形や動きの情報を処理する場所が活発に働いていて、(2)の時はそれぞれの要素を処理する場所すべてが(1)よりは弱く働いていることがわかりました。
ここで大切な補足ですが、 (1)と(2)の条件では、それぞれ同じ図が使われていました。という事は、被験者が色や形などのひとつの要素だけに注目していた時と、3つの全ての要素に注目していた時とでは、被験者に見せられていた情報自体は変わりがなかったのです。
この研究から、例えば意識的に色の情報に注意を払う事で、色を処理する脳の部位が活発に働き、その他の場所は色の変化を見ているにもかかわらず、色を処理する脳の部分は活発に働いていないということが解ります。
また、様々な行動を一緒に行うときに重要になる場所は、(2)の条件の時のみ働くことが観察されました。これは、たくさんの異なる情報を同時に処理しなくてはいけない、という(1)にはない難しさが(2)にはあったからと思われます。
■いろいろな方法で謎にアプローチしよう!
前回「“注意を払う”って一体どういうこと?」では注意を払う、払わないで、私達の経験から観察できることをお話ししました。今回は注意の働きを研究した実験を一つ紹介し、実際の脳の働きはどうなっているのかという点をお話ししました。Corbettaたちの実験から、注意を払う、払わないの違いで私達が映像の変化に気づくかどうかが違い、なおかつそれに伴った脳の働きの差があるという事がわかりましたね。
最後に、この実験のように経験からの観察と脳の活動を比べるなど、さまざまな手法を使うことで、ひとつの現象について科学的により深く学ぶことができるのです。心理学だけでなく、科学的に物事を研究するときにこのようなアプローチを取る事はとても重要になってきます。皆さんも、不思議だなと思ったことに対して、その謎を解明するさまざまな手法を考えてみてください。
Cherry, E C. (1953) Some experiments on the recognition of speech, with one and with two ears. Journal of Acoustical Society of America 25, 975--979.
Corbetta,M., Miezin, FM, Dobmeyer, S, Shulman, GL, & Petersen, SE (1991). Selective and divided attention during visual discriminations of shape, color, and speed: functional anatomy by positron emission tomography. Journal of Neuroscience, 11, 2383-2402.
前回“注意を払う”って一体どういうこと?」は、物事に注意を払うことで私たちの見たり聞いたりする経験がどういう風に変わるのか、という点に注目してお話をしました。今回は注意を払うことによって、私たちの脳の中ではどんな変化がおこっているか、という点についてお話ししてみたいと思います。
■さまざまなかたち、性質へ向けられる注意
注意を払うということが、実際脳の働きにどういった影響をおよぼしているかを研究する方法には、例えば下のような観察を行うものがあります。
Corbetta たち(1991)は被験者に下のような図をA、B と順番に見せて、AとBでは何が違うかを問いました。これらの絵には3種類の要素(色、形、動きのスピード)が含まれています。例えば、下の図は色が赤から黄色に変化し、形は四角から長方形へと変化、最後に動きのスピードが遅い状態から速い状態に変化している様子を示しています。
被験者はA、Bの図を見る前に、以下の2つの課題うちのどちらかひとつが渡されました。課題(1)は色、形、または動きのうちのひとつの要素について、AとBの違いを答えさせるもの。課題(2)は3要素の全ての違いについて答えなさいというものでした。
結果は、課題(2)で3要素全てについて違いを答えた場合、課題(1)でどの要素について違いを答えた場合よりも成績が悪い、というものでした。つまり被験者は、色、形、動きの3要素に同時に注目していても、結果的にはひとつの要素だけに注目していた時と比べると成績が悪かったということになります。
ここから、注意を払うにもどうやら限界があるという事が推測できるかと思います。逆に言うと、前回紹介したカクテルパーティ効果(Cherry, 1953)からもわかるように、たくさんの情報があふれている中、注意を部分部分に払うことで一部分の情報は確実に処理している、ということがうかがえます。
■脳の中はなにがおこっているの?
この実験では、(1)と(2)の条件の元での正答率を比較するだけでなく、PETスキャンという脳の活動を撮影する技術をつかって、(1)と(2)において被験者の脳の働き方はなにが違っているかを比較しました。
脳の中の細胞は同じ特徴を持つものが同じ場所に集まるように構成されています。例えば、色の情報を処理する細胞は第1次視覚野の4C-beta と呼ばれる層や第4次視覚野に集まり、動きの情報を処理する細胞は脳の中で第1次視覚野の4C-alpha層と側頭葉内側部などに集まっています。
実は、脳の研究者たちは過去の様々な研究から脳のどの部分の細胞がどういった情報を処理しているか、ということについて明らかにしてきました。
さてCorbettaたちが(1)の色、形、または動きのひとつの要素について違いを答えた時と(2)の3要素すべてについて違いを答えた時での脳の活動を比較してみた時、(1)の時は課題に応じて色、形や動きの情報を処理する場所が活発に働いていて、(2)の時はそれぞれの要素を処理する場所すべてが(1)よりは弱く働いていることがわかりました。
ここで大切な補足ですが、 (1)と(2)の条件では、それぞれ同じ図が使われていました。という事は、被験者が色や形などのひとつの要素だけに注目していた時と、3つの全ての要素に注目していた時とでは、被験者に見せられていた情報自体は変わりがなかったのです。
この研究から、例えば意識的に色の情報に注意を払う事で、色を処理する脳の部位が活発に働き、その他の場所は色の変化を見ているにもかかわらず、色を処理する脳の部分は活発に働いていないということが解ります。
また、様々な行動を一緒に行うときに重要になる場所は、(2)の条件の時のみ働くことが観察されました。これは、たくさんの異なる情報を同時に処理しなくてはいけない、という(1)にはない難しさが(2)にはあったからと思われます。
■いろいろな方法で謎にアプローチしよう!
前回「“注意を払う”って一体どういうこと?」では注意を払う、払わないで、私達の経験から観察できることをお話ししました。今回は注意の働きを研究した実験を一つ紹介し、実際の脳の働きはどうなっているのかという点をお話ししました。Corbettaたちの実験から、注意を払う、払わないの違いで私達が映像の変化に気づくかどうかが違い、なおかつそれに伴った脳の働きの差があるという事がわかりましたね。
最後に、この実験のように経験からの観察と脳の活動を比べるなど、さまざまな手法を使うことで、ひとつの現象について科学的により深く学ぶことができるのです。心理学だけでなく、科学的に物事を研究するときにこのようなアプローチを取る事はとても重要になってきます。皆さんも、不思議だなと思ったことに対して、その謎を解明するさまざまな手法を考えてみてください。
Cherry, E C. (1953) Some experiments on the recognition of speech, with one and with two ears. Journal of Acoustical Society of America 25, 975--979.
Corbetta,M., Miezin, FM, Dobmeyer, S, Shulman, GL, & Petersen, SE (1991). Selective and divided attention during visual discriminations of shape, color, and speed: functional anatomy by positron emission tomography. Journal of Neuroscience, 11, 2383-2402.
