理系大学生・大学院生によるサイエンスのおはなし

リバコミ!
Oct
12

アミノ酸のソムリエ!

 日が沈む時間が早くなって、だんだんと秋めいてきました。
 こんにちは、設楽愛子です。
 秋といえば、読書の秋、スポーツの秋、食欲の秋といろんな秋がありますが、魚の研究をしている私は、今年のサンマのプリプリぶりが気になります。プリプリになるほど栄養のある餌が豊富だったのでしょうか?
 特に私は魚の病気についての研究をしているので、栄養バランスがしっかりとしている餌を毎日あげて健康な魚を研究する必要があります。そのため、毎日毎日せっせと魚に餌をあげるのも重要な仕事です。今週は,そんな「魚の食事」に関するサイエンスをお届けします。

■ 味見して探そう
 普段、私は10個もの水槽の中で淡水魚はメダカ、ゼブラフィッシュ、海水魚はヒラメなど色んな魚を飼っています。これらの魚に毎日餌をあげるのは研究をする上でもとても大切な仕事ですが、さすがに水槽が10個もあると大変。けれども、餌をねだって寄ってくる魚、餌に食いつく魚を見ていると、心が癒されてきます。みなさんも、メダカや金魚に餌をあげた経験があるのではないでしょうか。水槽に投げ入れた餌をパクパクと食べる姿は、なんとも言えず可愛くないですか?
 ところで、この餌やりのときに魚をよく見ていると、少し不思議なことに気づきます。彼らは、なんで上から降ってくる小さな固まりを“餌”だと分かるんでしょう。中には水槽の底にたまった砂を口先でちょんちょんとつつき、餌らしきものを探し当てるとすぐにパクっと口の中に入れてしまうものもいます。その動きがあまりに素早く、餌かどうかをしっかり確認しているようには見えません。私たち人間だったら、食べ物っぽいものを見たらとりあえず様子を見て、においを嗅いだりなめてみたりして確認しますよね。魚はしっかり確認しないまま、それらしいものがあったら口に入れてしまうのでしょうか?
 しかし魚もああ見えて、そんなに抜けてはいません。実は彼らは、口の先で触れたものが餌かそうではないかを確かめることができる「ある感覚」を持っています。
 それはなんと、「味覚」。つまり、口の中ではなく、口の先でも味を感じて餌を見つけていたのです。

■ 食べなくても味がわかる!?
 味を感じるということは、そこに味を感じるための感覚器官があるということです。その感覚器官のことを一般的に「味蕾(みらい)」といいます。人間では舌の上にたくさん分布していて、私たちは舌で味を感じますよね。
 しかし、魚は味蕾が舌だけではなく口の先、私たちで言う唇部分にも存在します。そのため口の先でつついただけで味を感じることができます。
 それだけではありません!魚の場合、この味を感じる器官である味蕾は様々な場所に存在しているのです。口の中、唇はもちろんのこと、顔、ヒゲ、尻尾、そして鰭や皮膚にまで!
 つまり魚は、全身で味見ができるということなんです。
 なぜ、全身に味見ができる感覚器がついているのかというと、それは生息している場所に関係があります。多くの場合、口の中以外の部分にたくさん味蕾を持っている魚というのは、濁った水の中や、光がよく入らない海の底に生息しています。濁った水の中や暗い海の底では、餌を探すときに視覚に頼ることができません。
 つまり、餌を探すときに私たちのように目で見て探すことができないのです。
でも、もしも触った先の味がわかって、餌だと認識できたら?たとえ見えなくても、食べられる餌を素早く確実に探し出すことができるはずです。

 つまり、魚にとって味を感じる器官が体中に分布していることによって、的確に自分が必要な餌を探すことができるということです。
 特にこの味蕾が口以外に多いのは濁った水の底に棲むナマズ、水底の土の中の生き物を探して食べるハゼの仲間です。土の中の生き物を探して食べる魚は特に口についているヒゲに味蕾がたくさん分布していて、ヒゲを動かして、土の中を探ることで味見しながら餌を探しているのです。

■ 魚的グルメとは?
 魚が餌を食べるときの不思議な行動について分かったところで生まれてくる、次なる疑問。魚は一体、どんな味を感じているのでしょうか?
 人間が感じる基本的な味は、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5種です。これらの味覚は、生きる上で必要なもの(甘味:糖分、塩味:ミネラル、うま味:アミノ酸)や危険なもの(酸味:腐ったもの、苦味:毒)を見分けるために発達したと考えられています。では魚は甘いと餌だと思うのか、しょっぱいと餌だと思うか気になってきす。
 魚に餌を与えたときにどんな味で反応するかは実際に何種かの魚で実験されていますが、魚が反応した味は甘味でも塩味でもありませんでした。それは、アミノ酸の味。アミノ酸というのはいろいろなタンパク質を作る成分で体の素になる物質です。魚はご飯や小麦の成分である炭水化物をうまくエネルギーにできないので、基本的にエネルギーはタンパク質から摂取することがわかっています。
 魚は一番自分に必要な味がわかるということです。

 ちなみに人間をはじめとしてほ乳類にはアミノ酸の味は明確には区別できません。しかし、魚はアミノ酸の味の微妙な違いもわかってしまいます。
 これはそれぞれの魚の食性に関係していて、肉食性の魚は動物に多く含まれるアラニン、グリシン、セリン、プロリン、アルギニンの味に敏感に反応することができます。一方海藻などを食べる草食性の魚は、海藻に含まれるアラニン、グリシン、セリン、トレオニンそして海藻の美味しさの成分グルタミン酸に対して敏感に反応し、好んで食べます。
 つまり、魚は自分の体を作るために一番必要な味を、食べる前に口先で確かめながら餌を探すことができるというわけです。アミノ酸のソムリエのようですね。

 というわけで、ヒゲの先で土を触って即座に口に食べ物を入れてしまう魚は何も考えていない訳ではなくて、ヒゲの先で味しっかりと味見をして、自分に必要な餌だと確認してから食べていたという訳なのです。

 もし人間も手の先でご飯の味見をできたら美味しいものだけを選んでたべられて、食欲の秋にも負けないだろうなぁと思う今日この頃。
 でも美味しいものをたくさん見つけられるから、逆に太ってしまうかもしれません。
どちらにしろ、冬だから厚着で太ってもわからないなどと自分に甘えないで、ちゃんとコントロールしなさいということですね。
 
<参考文献>
魚類生理学の基礎 会田勝美編 恒星社厚生閣 2002発行


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