睡眠不足が「肥満」のもと!?
はじめまして、リバネスの佐藤彩子です。
11月に入り、今年も残すところあと2ヶ月となりました。修士2年の私にとって、今年は学生最後の年。卒業するまでの残り5ヶ月。あれもやりたい、これもやりたいと動いているうちに、ついつい寝るのが遅くなってしまう今日この頃です。
みなさんの中にも、眠い目をこすりながら、これを読んでいる人がいるのではないでしょうか?
さて、今日のサイエンストピックは、そんな方々にはドキッとする内容かもしれません。「睡眠と肥満」のお話です。肥満の原因というと、真っ先に思い浮かべるのが、カロリーの過剰摂取、運動不足、親からの遺伝などですよね。ところが、最近、多くの研究医の間で、「睡眠不足も肥満の原因の1つではないか」という説が考えられるようになってきたのです。起きている時間が多いから、食べ物に手を伸ばす機会が増えるだけなんじゃないの?と思う人もいますよね。ところが、そんなありきたりな理由だけではない、もっと科学的学的な理由があるようなのです。今日は、睡眠不足と肥満のそんな関連性に着目した、2つの研究を紹介したいと思います。
● 寝不足が肥満になるリスクをあげる!?
今をさかのぼること20年前、舞台は1980年代前半のアメリカです。当時のアメリカでは、国民の60%が基準体重を超え、さらにそのうち27%が肥満。まさに肥満大国への道をまっしぐら。このままでは死因のトップが肥満になってしまうのではないかと恐れた政府は、肥満が起こるメカニズムの解析や肥満治療の研究に、多額の研究費を費やすようになっていました。
その頃の市民の生活はというと、夜遅くまで開いているスーパーや、夜遅くまで放映しているテレビ番組の登場で、生活リズムさえも近代化への一歩を歩み始めていました。そこで、国民生活調査の一貫として、睡眠パターンの調査が行われるようになりました。驚くことに、人々の平均睡眠時間が、1960年代と比べて短縮していることがわかったのです。
そこで考えたのが、コロンビア大学のJames Gangwisch。「睡眠時間と肥満には何らかの関係があるのではないか。」彼らは、1982年〜1992年の10年間、全米に住む32才〜49才までの男女9500名から、それぞれの睡眠時間とBMI値を自己申告させ、それらの関連性を調査しました。その結果、意外な相関性がわかったのです。一晩に5時間しか眠らない人たちが肥満になる確率は、7時間以上眠る人たちが肥満になる確率に比べて、60%以上も高かったのです。
ですが、わかったことは、睡眠不足だと肥満になりやすいという事実だけ。一体なにがその間をつないでいるのか?残念ながら、その答えまではわかりませんでした。
● 寝不足で食欲が増進する!?
そして次の10年の間、国をあげての肥満研究の成果が着実に現れだしました。体の調子を維持する数々の「ホルモン」のバランスの異常が、肥満の原因になりうることがわかったのです。
そこで、2003年、シカゴ大学のEve Van Cauterはこう考えました。「睡眠不足がホルモンバランスをくずし、肥満が起こるのではないか。」
彼らが目をつけたのが、食欲やエネルギー消費を調節するホルモン、「レプチン」と「グレリン」でした。
レプチンは、1994年、遺伝性肥満マウス(いくら食べても食欲が低下せず、過食によって太るマウス)から発見されたホルモンで、主に脂肪細胞で産生されます。脳の視床下部という部分に働いて、食欲を抑制したり、エネルギー消費を促進したりします。
一方、グレリンは、1999年、ヒトとラットの胃から発見されたホルモンで、主に胃から産生されます。レプチン同様、脳の視床下部に働き、食欲を促進したり、成長ホルモンを分泌させたりします。
つまり正常な状態では、グレリンが視床下部に対し「お腹すいた!」という感覚をおこさせ、レプチンが「お腹いっぱい!」という合図をおくることで、うまく食べ過ぎを防いでいるのです。
彼らは、睡眠不足が与えるレプチンとグレリンへの影響を確かめるために、12人の若い男性を被験者として集め、2日間、一晩あたりに与える睡眠時間を9時間、もしくは4時間と管理し、被験者のレプチンとグレリンの濃度をモニターしました。
その結果はおもしろいものとなりました。2日間連続で4時間しか眠っていない男性の血中レプチン濃度は、9時間睡眠の男性の場合よりも平均で18%減少しており、一方、グレリン濃度が28%増加していたのです。同時に、睡眠不足の男性は空腹感が強く、たんぱく質性食品や果物、野菜よりもケーキやポテトチップス、パンといった炭水化物を多く含む食品を食べたがる傾向も見られました。つまり、睡眠不足になったことで、グレリンの分泌がレプチンの分泌を上回り、食欲が抑えられなくなってしまっていたのです。さらに、レプチンが分泌されにくくなったため、エネルギーも消費されにくい状態になっていたのです。
これらのことを考えると、睡眠不足は食欲を調節する正常なホルモンバランスを壊し、肥満になるリスクを高めることがわかります。一度、生活のリズムの乱れが原因で肥満に陥ってしまうと、睡眠不足と抑制の外れた食欲とが、悪循環を招いてしまうのかもしれませんね。
短い睡眠時間でも問題なく過ごせると思っている方、最近ちょっと食べ過ぎてしまうのは、睡眠不足のせいかもしれません。
ダイエットを考えている方、ついつい誘惑に負けてしまうのも、睡眠不足の影響かもしれません。
みなさん、ここで一度、ライフスタイルを見直してみてはいかがですか。
<参考文献>
SLEEP IT OFF, Nature, 2006, 3, 261-263
Gangwisch JE, Malaspina D, Boden-Albala B, Heymsfield SB, Inadequate sleep as a risk factor for obesity: analyses of the NHANES I. Sleep. 2005, 28, 1289-96.
第124回 日本医科学シンポジウム記録集 肥満の科学 日本医学会
プレサイエンス・シリーズ8 脳と肥満―肥満と脳機能の関わり合い 共立出版
11月に入り、今年も残すところあと2ヶ月となりました。修士2年の私にとって、今年は学生最後の年。卒業するまでの残り5ヶ月。あれもやりたい、これもやりたいと動いているうちに、ついつい寝るのが遅くなってしまう今日この頃です。
みなさんの中にも、眠い目をこすりながら、これを読んでいる人がいるのではないでしょうか?
さて、今日のサイエンストピックは、そんな方々にはドキッとする内容かもしれません。「睡眠と肥満」のお話です。肥満の原因というと、真っ先に思い浮かべるのが、カロリーの過剰摂取、運動不足、親からの遺伝などですよね。ところが、最近、多くの研究医の間で、「睡眠不足も肥満の原因の1つではないか」という説が考えられるようになってきたのです。起きている時間が多いから、食べ物に手を伸ばす機会が増えるだけなんじゃないの?と思う人もいますよね。ところが、そんなありきたりな理由だけではない、もっと科学的学的な理由があるようなのです。今日は、睡眠不足と肥満のそんな関連性に着目した、2つの研究を紹介したいと思います。
● 寝不足が肥満になるリスクをあげる!?
今をさかのぼること20年前、舞台は1980年代前半のアメリカです。当時のアメリカでは、国民の60%が基準体重を超え、さらにそのうち27%が肥満。まさに肥満大国への道をまっしぐら。このままでは死因のトップが肥満になってしまうのではないかと恐れた政府は、肥満が起こるメカニズムの解析や肥満治療の研究に、多額の研究費を費やすようになっていました。
その頃の市民の生活はというと、夜遅くまで開いているスーパーや、夜遅くまで放映しているテレビ番組の登場で、生活リズムさえも近代化への一歩を歩み始めていました。そこで、国民生活調査の一貫として、睡眠パターンの調査が行われるようになりました。驚くことに、人々の平均睡眠時間が、1960年代と比べて短縮していることがわかったのです。
そこで考えたのが、コロンビア大学のJames Gangwisch。「睡眠時間と肥満には何らかの関係があるのではないか。」彼らは、1982年〜1992年の10年間、全米に住む32才〜49才までの男女9500名から、それぞれの睡眠時間とBMI値を自己申告させ、それらの関連性を調査しました。その結果、意外な相関性がわかったのです。一晩に5時間しか眠らない人たちが肥満になる確率は、7時間以上眠る人たちが肥満になる確率に比べて、60%以上も高かったのです。
ですが、わかったことは、睡眠不足だと肥満になりやすいという事実だけ。一体なにがその間をつないでいるのか?残念ながら、その答えまではわかりませんでした。
● 寝不足で食欲が増進する!?
そして次の10年の間、国をあげての肥満研究の成果が着実に現れだしました。体の調子を維持する数々の「ホルモン」のバランスの異常が、肥満の原因になりうることがわかったのです。
そこで、2003年、シカゴ大学のEve Van Cauterはこう考えました。「睡眠不足がホルモンバランスをくずし、肥満が起こるのではないか。」
彼らが目をつけたのが、食欲やエネルギー消費を調節するホルモン、「レプチン」と「グレリン」でした。
レプチンは、1994年、遺伝性肥満マウス(いくら食べても食欲が低下せず、過食によって太るマウス)から発見されたホルモンで、主に脂肪細胞で産生されます。脳の視床下部という部分に働いて、食欲を抑制したり、エネルギー消費を促進したりします。
一方、グレリンは、1999年、ヒトとラットの胃から発見されたホルモンで、主に胃から産生されます。レプチン同様、脳の視床下部に働き、食欲を促進したり、成長ホルモンを分泌させたりします。
つまり正常な状態では、グレリンが視床下部に対し「お腹すいた!」という感覚をおこさせ、レプチンが「お腹いっぱい!」という合図をおくることで、うまく食べ過ぎを防いでいるのです。
彼らは、睡眠不足が与えるレプチンとグレリンへの影響を確かめるために、12人の若い男性を被験者として集め、2日間、一晩あたりに与える睡眠時間を9時間、もしくは4時間と管理し、被験者のレプチンとグレリンの濃度をモニターしました。
その結果はおもしろいものとなりました。2日間連続で4時間しか眠っていない男性の血中レプチン濃度は、9時間睡眠の男性の場合よりも平均で18%減少しており、一方、グレリン濃度が28%増加していたのです。同時に、睡眠不足の男性は空腹感が強く、たんぱく質性食品や果物、野菜よりもケーキやポテトチップス、パンといった炭水化物を多く含む食品を食べたがる傾向も見られました。つまり、睡眠不足になったことで、グレリンの分泌がレプチンの分泌を上回り、食欲が抑えられなくなってしまっていたのです。さらに、レプチンが分泌されにくくなったため、エネルギーも消費されにくい状態になっていたのです。
これらのことを考えると、睡眠不足は食欲を調節する正常なホルモンバランスを壊し、肥満になるリスクを高めることがわかります。一度、生活のリズムの乱れが原因で肥満に陥ってしまうと、睡眠不足と抑制の外れた食欲とが、悪循環を招いてしまうのかもしれませんね。
短い睡眠時間でも問題なく過ごせると思っている方、最近ちょっと食べ過ぎてしまうのは、睡眠不足のせいかもしれません。
ダイエットを考えている方、ついつい誘惑に負けてしまうのも、睡眠不足の影響かもしれません。
みなさん、ここで一度、ライフスタイルを見直してみてはいかがですか。
<参考文献>
SLEEP IT OFF, Nature, 2006, 3, 261-263
Gangwisch JE, Malaspina D, Boden-Albala B, Heymsfield SB, Inadequate sleep as a risk factor for obesity: analyses of the NHANES I. Sleep. 2005, 28, 1289-96.
第124回 日本医科学シンポジウム記録集 肥満の科学 日本医学会
プレサイエンス・シリーズ8 脳と肥満―肥満と脳機能の関わり合い 共立出版
