理系大学生・大学院生によるサイエンスのおはなし

リバコミ!
Nov
30

この世界をつくる粒と波のお話…量子論 [後編]

 こんにちは。リバネスの垣田です。
 街中もだんだんと冬らしい華やかさに包まれてきました。透き通る空気の中に、落ち葉の赤や黄色、夜になると白やブルーのイルミネーション。いよいよ冬が始まる気配を感じます。

 今回のサイエンストピックスも先々週につづき、目に見えない小さな世界の、私たちの想像力を超えた、でもそこがわくわくする、量子論のお話です。

 今回は、実験とその応用例の紹介です。
 一見私たちの生活とはまったく関係なさそうに見えるこの理論、実はとても身近なところで利用されていたりするのです。最初に、先々週のおさらいをちょっとして、どんなところで利用されているのかをみなさんと一緒に覗いてみながら、その不思議をご紹介したいと思います。

■ 量子って何モノ!?
 私たちの住む世界をつくっている大切なもの…それが、物質をつくっている原子核や電子などの『粒』と、光や電波などの『波』でした。ところがこの粒と波、粒は波でもあり、波は粒でもあるという、おどろきの性質をもっていたのです。そしてこの2つの性質を持つものを『量子』と呼ぶのでした。

 『光や物質は、粒でもあり波でもある』…私たちの頭脳ではイメージ出来ない、不思議なことこの上ない性質です。でも、実験は確かにこの事実を示しているのです…。


■ 『波』=『粒』!?〜光電効果〜
 『波』であると思われていた光が、『粒』としての性質を持つことを示す一例が、「光電効果」とよばれるものです。これは、光を金属板にあてたとき、金属内部の電子が光からエネルギーをもらって、表面から飛び出してくる現象のことです。砂場にビー玉を投げつけたときに、砂粒が跳ね返ってくるようなものです。
この原理は太陽電池などに利用されています。この現象で、どうして光が粒としての性質を示すとわかるのでしょうか。

 まず光を波と考えてみます。
 光が連続した波なら、大きな波の強い光(つまり明るい光)をあてれば、金属中の電子は金属板を飛び出せるだけのエネルギーを得られるはずです。また小さな弱い光でも長時間あて続ければ、やはり電子はエネルギーをもらって飛び出してくるでしょう。

 では、光を1つ1つの粒として考えてみるとどうでしょうか。
 粒の場合、明るさは光の『粒の数の』の大小を意味します。小さなエネルギーの粒をたくさんあてても(つまり明るくても)金属中の電子は飛び出してきません。またそれをいくら長時間あて続けてみても、1つ1つの粒のエネルギーが小さければ、電子はやはり飛び出せません。逆に大きなエネルギーをもつ粒であれば、数は少なくても(暗くても)電子は飛び出してくるでしょう。これは先ほど述べた砂場にビー玉を投げつける例を考えてみると、イメージができると思います。

 さて、実験結果は…?
 飛び出してくる電子のエネルギーは、当てた光の量(明るさ)ではなく、光1つが一回に金属板に衝突するエネルギーの強さに比例することが分かりました。光は粒としての性質を示していたのですね。そしてこのエネルギーの大きさは光の波長ごとに違っているのです。

 かの有名なアインシュタインはこの実験結果から「光は粒の性質を持つ」と主張しました。光は波長によってきまるエネルギーをもち、そして、ある最小単位のエネルギーを持った粒としてふるまう、と結論付けたのです。光量子仮説とよばれるこの理論により、彼はノーベル賞を受賞しています。(アインシュタインのノーベル賞受賞理由は相対性理論ではないのです)
 

■ 光が粒だから出来たこと
 光電効果は、さまざまなところに応用されています。たとえば、先に挙げた太陽電池。
 この仕組みは太陽光をあてることで電子にエネルギーを与え、その電子によって電流が流れるというものです。光のエネルギーを電子に与える・・・まさに光電効果そのもの!

 また、太陽といえば、太陽の光(紫外線)には短時間あたるだけで日焼けするのに、これからの季節の主役、ストーブに長時間当たっても日焼けしないのも、この粒としての光の性質で説明がつきます。

 先ほどもご紹介したように、光のエネルギーの大きさは波長の違いによって決まります。紫外線は波長が短い、つまりエネルギーの大きい粒、一方でストーブから出る光(可視光・遠赤外線)は波長の長い、つまりエネルギーの小さい粒です。大きなエネルギーをもつ光の粒によって肌がダメージを受けるのが、日焼けという現象なのです。


■ 『粒』=『波』!?〜トンネル効果〜
 反対に、『粒』であると思われていた物質が、『波』としての性質を持つことの一例に、トンネル効果という現象があります。この現象は例えばUSBメモリや次世代ディスプレイSEDなどに利用されています。

 たとえば、+(プラス)の電気を持つ粒が2つあるとしましょう。これらは+同士ですから、磁石のN極とN極のように、反発しあう力が働き、その力に邪魔されてお互いに近づくことはできないはずです。
しかし、この2つの『粒』が『波』であるとすると、話が違ってきます。まるで光が窓ガラスを通り抜けるように、邪魔する力を「通り抜け」て、より近づくことが可能になるのです。



 壁に向かってボールを投げたら、跳ね返ってくるはずが、向こう側に通り抜けちゃった!というような、何だかびっくりなイメージです。

 このように、たとえ邪魔する力があっても、それを「通り抜け」てしまう現象のことを、まるで壁の中にトンネルを掘って通り抜ける様であることから、「トンネル効果」と呼んでいます。


■ 物質が波だから出来たこと
 光電効果同様、トンネル効果も、実用上とても大切な現象です。例えば先程述べたUSBメモリは、使ったことのある方も多いのではないでしょうか。この現象を応用した電子部品や製品は、その他にもたくさんあります。
それと気づかずとも、身の回りには量子論を応用したものがたくさん存在しているのです。

 また、寒い日にもあたたかな光を注いでくれる太陽。実はこの中でもトンネル効果が起きています。太陽の中心では、「陽子(ようし)」という+の電気をもつ粒が4つくっついてヘリウム原子核が作られています(核融合)。+同士の粒がくっつけるこの現象も、トンネル効果によるものなのです。
 地球上に生命が誕生して以来、ずっとお世話になってきた太陽のその内側。人の預かり知らぬところで、こんなに不思議なことが起こっていたのですね。


■ さいごに・・・
 応用例はここで触れたものの他にも、私たちの身近なところに、もっともっと、たくさんあります。とはいえ、光や物質が『粒』でもあり、『波』でもある・・・目に見えない小さな世界の、私たちにはやっぱり、とてもとても不思議な話。

 前回の最後に触れた「電子の場所が確率としてしかわからない」というのも、本当のところはやはり誰にも分かりません。あくまでも「解釈」なのです。

 サイエンスはWhy?(なぜ?)というより、むしろHow(どのように説明するか)の学問ともいわれます。このHowの側面がとっても色濃く出るのが、量子論や相対性理論などの現代物理学なのでしょう。

 人間にとっての常識や想像力にとらわれることのない、けれど実験事実にきちんと基づいている論理の積み重ね。そして、実はまだまだわからないことだらけの、この世界の不思議さ。
 このあたりに量子論をはじめとする現代物理学の、ひいてはサイエンスの美しさがあるのだと、私は強く感じています。

私たちが日頃感じることが出来るのは、そう、この世界のほんの一部にすぎないのかもしれません。
人間の理解を超えたこんな不思議があるなんて、ちょっとわくわくしませんか。


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