理系大学生・大学院生によるサイエンスのおはなし

リバコミ!
Dec
07

赤いオーロラ

 この時期、お湯炊き機能のないユニットバスで湯船に浸かっているとどんどんぬるくなってなんだかとても寂しい気分になる人、少なからずいるのではないでしょうか。

 私もそんな一人。はじめまして、三浦です。

 というわけで私は、近所といっても自転車で5分ほどの所にある銭湯に行き、熱めの湯船にじーっと浸かって、湯上りににんじん汁をぐいっと飲むのが、寒い冬の至福のひととき。5分強、夜中の冷たい風を浴びて結局鳥肌が立つのはご愛嬌。
 家までの道のり、静かな夜の冷たい風を切る感覚は私を浪漫飛行へと誘います。霧のかかった乳白色の暗闇は湯船に浸かっているときのようなうっとりした感覚にさせ、浸み込んでくる風が体をヒヤッとさせて空想と現実を行ったり来たり。北欧と日本を行ったり来たり。ちょうど、“叫び”で有名なムンクの絵が上野に来ていますが、ノルウェー出身の彼の作品はとても美しい色使いでした。綺麗だけど少し不気味な、まるでオーロラのような絵―

■オーロラの伝説 “不吉の前兆”
 何色にも織り成したカーテンのように極地の夜空にたなびくオーロラ。そんな美しいイメージとは裏腹に、昔はオーロラを“不吉の前兆”とする言い伝えがあったそうです。

 北米のイヌイットは「夜空が真っ赤に染まったとき、それを血の海と呼び、不吉なことが起こると恐れていた。」
 中世ヨーロッパの人々は「地の果てである北の空からやって来る赤いオーロラが、神の怒りであると怖れていた。」
 中国では「赤いオーロラは政治の大変革の前ぶれと考えられていた。」
 日本でも、藤原定家の『名月記』に「北の空から赤気(オーロラのこと)が迫ってきた。白い箇所が5ヶ所ほどあり、筋も見られる。恐ろしい光景なり。」と詠っています。

 空一面にオーロラが現れたとき、人々はこの世のものとは思えぬ美しさに底知れぬ恐怖感を覚えたのかもしれません。
 
■オーロラって何? “太陽からの風”
 一方で、オーロラは昼間、雪が吸収した太陽熱を、夜になって吐き出す現象だと考えられていた時期がノルウェーにありました。

 他にも、「北極海を取り巻いて燃える炎」、「魚の大群が雲に反射した光」などたくさんの説が各国にありましたが、その国その土地でしか当てはまらない話が多かったようです。
 では、空をたなびくカーテンの正体はいったい何なのでしょうか。果たしてカーテンの向こう側に災いは潜んでいるのでしょうか・・・?

 オーロラは、太陽から吹く“風”と関係しています。太陽は、プラズマ粒子と総称されるマイナスの電荷を帯びた電子とプラスの電荷を帯びた陽子を常に放出しています。このプラズマ粒子の流れを「太陽風」と言います。太陽風は地球にも吹きつけていますが、地球の磁場がバリアーになって地上にまではほとんど届くことはありません。しかし一部が磁場に絡め取られて北極や南極に降り注ぎ、地球大気の粒子(酸素原子や窒素原子)と衝突して光を発します。それがオーロラです。

■オーロラの色 “虹色のカーテン?”
 文頭に「何色にも織り成したカーテン」と表現しましたが、実際にオーロラは何色の光を放っているのでしょうか。

 オーロラの色は稲妻や蛍光灯そしてネオンサインなどの“放電”と同じ原理で光ります。放電とは、管の中の粒子に電気のエネルギーが衝突することによって発光する現象で、オーロラも大気中の粒子にエネルギーを持ったプラズマ粒子がぶつかることによって光ります。そして、大気中の粒子の種類と、プラズマ粒子が持つエネルギーの大きさによってさまざまな色を発するのです。
 このオーロラの色を決める2つの要素に影響するのが、高度。高い高度(200〜300km)では大気の密度が低く、大気成分の大半が酸素原子です。ここにプラズマ粒子がやってくると、エネルギーの強いプラズマ粒子と衝突したときは約1秒後に緑色の光を発し、弱いエネルギーのプラズマ粒子とぶつかったときはゆっくりと時間をかけて約110秒に長時間光り続ける赤色を発します。低い高度(100〜200km)には弱いエネルギーのプラズマ粒子が入り込んでこられないため、主に緑色の光が生まれます。さらに低い、高度100kmほどのところでは、窒素分子が非常に速い反応速度で青やピンクの色に光ります。

 このようにオーロラは高度によって光の色が異なります。必ずこういう色、というわけではありませんが、高度が高い方から赤、緑、青やピンクに光っているのです。つまり、オーロラを作るのは不連続の光。虹は波長によって分かれた連続した色でできているので、オーロラを『虹色のカーテン』と表現するのは、科学的には正しくはないようです。

■赤いカーテン “神の怒りが磁場に嵐を起こす?”
 オーロラを不気味なものとしてきた伝説の場合、対象となるオーロラはどうやら赤いものが多いようです。そして、その伝説があった国の多くは、日本やヨーロッパなど中緯度の国々です。これには何か関連性があるのでしょうか?

 まず、日本やヨーロッパなどの中低緯度域にもオーロラは現れるのか?と疑問に思った方もいるかもしれません。中低緯度域のオーロラは、活発な太陽活動により太陽風が強く吹いてバリアー(磁場)が大きく押され、オーロラ帯(オーロラができる範囲。極地を囲んだドーナツ型をしています)が拡大したときにだけ見られます。このとき、地球は丸いためオーロラの下の方は地球に隠れて見えないので、上部(は赤いことが多い)だけが見えていることになります。まれな現象なだけに、血のように真っ赤に染まった空に、人々は一層震撼したことでしょう。

■弱まる地球の磁力
 ということは、地球の磁力が弱まることによっても、オーロラを日本で見ることができます。太陽風のパワーが強いことと、地球の磁力が弱まることは、太陽風と地球磁力のバランスでいえば同じことなのです。
 地球の磁力は一定ではありません。現に19世紀初頭にドイツの科学者ガウスが測定を開始して以来、年に0.05−0.07 %の割合で減少しています。
 地球磁場は、太陽風の粒子から地球を守るバリアーとなっています。地球の磁力が弱まると、宇宙を飛びかっている高エネルギーの宇宙線が直接地上に入り込みやすくなり、脳や遺伝子にダメージを与えたり、突然変異を起こす可能性も考えられます。地球のバリアーが弱まるということは、私たちにとって何を意味するのでしょうか。日本でしょっちゅうオーロラが見られるようになる!と嬉しくなるようなことだけでは済まされないですよね。
 カーテンの向こう側に宇宙の神秘を感じちょっと身震いしてしまう、今日この頃です。


<参考文献>
1.『オーロラ50のなぜ』 名古屋大学太陽地球環境研究所・りくべつ宇宙地球科学館,2003
http://www.stelab.nagoya-u.ac.jp/ste-www1/naze/aurora/index.html
2.『オーロラ その謎と魅力』 赤祖父俊一,岩波新書,2002


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