写真で山の健康診断
こんにちは。先日、念願の最新型新幹線N700系に乗ってきたリバネスの垣田です。愛用のデジタルカメラで、嬉々として写真をとってきてしまいました。最近のデジタルカメラの性能はすばらしく、私のような素人でもきれいに撮れてしまうので、写真がぐっと身近になりました。
でも昔ながらのフィルム写真もまだまだ捨てたものではありません。普通に写真をとるのに使われるだけでなく、その特性を生かし、サイエンスの現場でも大活躍しているのです。その一例が、火山の観測。写真フィルムを使って、まるで健康診断のレントゲン写真のように火山の「中身」を写してしまおうという、新しい試みを紹介します。
浅間山の内部が見えた!
2006年夏、長野県の浅間山で、写真フィルムを使って火山内部を写し取る実験が行われました。その結果、火口の浅い部分に空洞が存在していることが確認されたのです。つまり、火山内部の密度を測定することに成功した、ということです。噴火は火山の内部で、周囲の岩盤と比べて密度の小さいマグマが動くことで起こります。もしそのマグマの動きを感知出来れば、噴火の予知が実現する可能性があります。
では、このフィルムはどのような仕組みで火山内部の写真を記録するのでしょうか。先ほど、まるでレントゲン写真のように、と書きました。私たちが健康診断でレントゲン写真をとる時は、身体の調べたい部分にX線をあてます。X線は、骨などのぎゅっとつまった部分は通過しにくく、逆に空気を多く含んだ肺などはよく通り抜ける性質をもちます。つまり、X線が通過する割合で、身体の中の様子がわかるのです。山にもX線・・・しかし、X線ではエネルギーが小さすぎて、巨大な山を通過することはできません。代わりに、もっと大きなエネルギーを持った何かが必要です。それが、宇宙線です。
宇宙からは太陽や星からの光だけでなく、宇宙線と呼ばれる粒子もたくさん降ってきています。そしてそれは地球の大気にあたって、ミュー粒子と呼ばれる原子よりもずっと小さな粒子をたくさんつくります。山の中も通り抜けられるエネルギーを持ったこのミュー粒子が、レントゲンにおけるX線の役割をするのです。(ミュー粒子について詳しくはこちらをご覧ください)
山の中を通り抜けてくるミュー粒子の数は、山の中が固い岩で詰まっていれば少なく、逆に、空洞があったり、マグマのような密度の小さい物質が存在したりしていれば、たくさん通過してきます。つまり、山を通過するミュー粒子の数がわかれば、山の中の様子を透視できることになります。
検出器は写真フィルム
この、通過するミュー粒子を検出するフィルムとして、「原子核乾板」と呼ばれるちょっと特殊な写真フィルムが活躍するのです。
一般に使われているフィルム写真(銀塩写真)の原理は、光があたるとその部分が化学変化をし(『感光』といいます)、現像によって写した風景が浮き出てくるというものです。原子核乾板は、学術実験用として、ミュー粒子のような電気を持った粒子に感度が強くなるよう作られていますが、その原理は一般のフィルムと同じです。ミュー粒子が通り抜けた「跡」に沿って化学変化が起き、現像によって線として目に見えるようになります。いわば、飛行機が飛んでいった跡に飛行機雲がしっぽをひくような、そんなイメージです。
この線は1μmという、髪の毛の100分の1程度の太さのため、顕微鏡で拡大することで観察を行います。顕微鏡といっても電子顕微鏡のような特別なものではなく、理科の実験で使うような普通の光学顕微鏡で、10倍以上の倍率を使えば簡単に見ることが出来ます。
ミュー粒子のような、肉眼ではけして見ることの出来ないミクロの粒子が、写真フィルムに写されることで、私たちの目にも見える形でその姿を現すという点が、この方法のおもしろいところ。しかも1μmという超高精度は、他の検出器には真似の出来ない、フィルムならではの芸当なのです。

フィルムで噴火予知
はじめに触れた浅間山の実験方法は、この写真フィルムを火口に向けて設置し、あとは2か月の間そのまま置いておくだけという、とってもシンプルなもの。それだけで、700000コものミュー粒子が写ってくれるのです。その後は一般の写真同様、現像をします。そして写っているミュー粒子の数をやってきた方角、つまりそのミュー粒子が透過した山の部位ごとに数えることで、火山内部の様子を知ることが出来たのです。
実はフィルム以外にも、ミュー粒子の数を数えることの出来る検出器はあります。しかし、火山の内部をより正確に知るためには、より火口に近づいて観測を行う必要があります。電源が要らず、人が行けるところならどこにでも設置できる写真フィルムの方が、はるかに高い精度で火山内部の様子を知ることができるのです。今はまだ火口の浅い部分しか観測出来ていませんが、もっと深いところまで見ることが出来れば、写真フィルムを使った噴火予知の実現がいっそう現実的になることでしょう。
私たちのまわりから急速に姿を消しつつある、フィルム写真。でもその活躍の場は、意外な分野にまだたくさん秘められているのかもしれません。
<参考文献>
○原著論文
H.K.M. Tanaka et al.
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research. A575, 489-497(2007)
○日本語版要約(東大地震研究所ニュースレター/2007年3月号)
『エマルションクラウドチェンバーを用いた火山体内部の宇宙線イメージング』
http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/KOHO/NEWSLETTER/200703/nl200703.pdf
でも昔ながらのフィルム写真もまだまだ捨てたものではありません。普通に写真をとるのに使われるだけでなく、その特性を生かし、サイエンスの現場でも大活躍しているのです。その一例が、火山の観測。写真フィルムを使って、まるで健康診断のレントゲン写真のように火山の「中身」を写してしまおうという、新しい試みを紹介します。
浅間山の内部が見えた!
2006年夏、長野県の浅間山で、写真フィルムを使って火山内部を写し取る実験が行われました。その結果、火口の浅い部分に空洞が存在していることが確認されたのです。つまり、火山内部の密度を測定することに成功した、ということです。噴火は火山の内部で、周囲の岩盤と比べて密度の小さいマグマが動くことで起こります。もしそのマグマの動きを感知出来れば、噴火の予知が実現する可能性があります。
では、このフィルムはどのような仕組みで火山内部の写真を記録するのでしょうか。先ほど、まるでレントゲン写真のように、と書きました。私たちが健康診断でレントゲン写真をとる時は、身体の調べたい部分にX線をあてます。X線は、骨などのぎゅっとつまった部分は通過しにくく、逆に空気を多く含んだ肺などはよく通り抜ける性質をもちます。つまり、X線が通過する割合で、身体の中の様子がわかるのです。山にもX線・・・しかし、X線ではエネルギーが小さすぎて、巨大な山を通過することはできません。代わりに、もっと大きなエネルギーを持った何かが必要です。それが、宇宙線です。
宇宙からは太陽や星からの光だけでなく、宇宙線と呼ばれる粒子もたくさん降ってきています。そしてそれは地球の大気にあたって、ミュー粒子と呼ばれる原子よりもずっと小さな粒子をたくさんつくります。山の中も通り抜けられるエネルギーを持ったこのミュー粒子が、レントゲンにおけるX線の役割をするのです。(ミュー粒子について詳しくはこちらをご覧ください)
山の中を通り抜けてくるミュー粒子の数は、山の中が固い岩で詰まっていれば少なく、逆に、空洞があったり、マグマのような密度の小さい物質が存在したりしていれば、たくさん通過してきます。つまり、山を通過するミュー粒子の数がわかれば、山の中の様子を透視できることになります。
検出器は写真フィルム
この、通過するミュー粒子を検出するフィルムとして、「原子核乾板」と呼ばれるちょっと特殊な写真フィルムが活躍するのです。
一般に使われているフィルム写真(銀塩写真)の原理は、光があたるとその部分が化学変化をし(『感光』といいます)、現像によって写した風景が浮き出てくるというものです。原子核乾板は、学術実験用として、ミュー粒子のような電気を持った粒子に感度が強くなるよう作られていますが、その原理は一般のフィルムと同じです。ミュー粒子が通り抜けた「跡」に沿って化学変化が起き、現像によって線として目に見えるようになります。いわば、飛行機が飛んでいった跡に飛行機雲がしっぽをひくような、そんなイメージです。
この線は1μmという、髪の毛の100分の1程度の太さのため、顕微鏡で拡大することで観察を行います。顕微鏡といっても電子顕微鏡のような特別なものではなく、理科の実験で使うような普通の光学顕微鏡で、10倍以上の倍率を使えば簡単に見ることが出来ます。
ミュー粒子のような、肉眼ではけして見ることの出来ないミクロの粒子が、写真フィルムに写されることで、私たちの目にも見える形でその姿を現すという点が、この方法のおもしろいところ。しかも1μmという超高精度は、他の検出器には真似の出来ない、フィルムならではの芸当なのです。

フィルムで噴火予知
はじめに触れた浅間山の実験方法は、この写真フィルムを火口に向けて設置し、あとは2か月の間そのまま置いておくだけという、とってもシンプルなもの。それだけで、700000コものミュー粒子が写ってくれるのです。その後は一般の写真同様、現像をします。そして写っているミュー粒子の数をやってきた方角、つまりそのミュー粒子が透過した山の部位ごとに数えることで、火山内部の様子を知ることが出来たのです。
実はフィルム以外にも、ミュー粒子の数を数えることの出来る検出器はあります。しかし、火山の内部をより正確に知るためには、より火口に近づいて観測を行う必要があります。電源が要らず、人が行けるところならどこにでも設置できる写真フィルムの方が、はるかに高い精度で火山内部の様子を知ることができるのです。今はまだ火口の浅い部分しか観測出来ていませんが、もっと深いところまで見ることが出来れば、写真フィルムを使った噴火予知の実現がいっそう現実的になることでしょう。
私たちのまわりから急速に姿を消しつつある、フィルム写真。でもその活躍の場は、意外な分野にまだたくさん秘められているのかもしれません。
<参考文献>
○原著論文
H.K.M. Tanaka et al.
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research. A575, 489-497(2007)
○日本語版要約(東大地震研究所ニュースレター/2007年3月号)
『エマルションクラウドチェンバーを用いた火山体内部の宇宙線イメージング』
http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/KOHO/NEWSLETTER/200703/nl200703.pdf
