理系大学生・大学院生によるサイエンスのおはなし

リバコミ!
Apr
04

遺伝子組換えか?!

こんにちは、メルマガ初登場の吉田拓実です。

 みなさん、お花見には行きましたか?私はつい最近上野公園に行ってきました。花見もそうですが、これから暖かくなってくると外に出る機会がなにかと増えてきますよね。そうなると気になってくるのは、今はまだ大人しくなりを潜めている「あいつら」。そう、なんの断りもなく、勝手に血を吸っていき、迷惑なかゆみを残していく、蚊です。
 今週はそんな蚊への対策として、イギリスの会社が発表した驚きの研究報告について紹介していきたいと思います。


■日本の蚊と世界の蚊

 日本では、蚊はかゆみを引き起こしたり、耳元をブンブン飛び回って眠りを妨げたりするうっとうしいやつ、という程度の存在ですよね。
 しかし、この蚊の中には、感染症を媒介して広めていくという危険な性質を持つものも存在します。その代表例が、ネッタイシマカ(学名:Aedes aegypti)で、デング熱という感染症を引き起こすウイルスを運びます。デング熱は、全世界で25億人に感染する危険性があるとアメリカ疾病予防管理センターによって推定されていて、現代社会において解決が急がれている感染症の1つです。
 しかし、デング熱に対する有効なワクチンは見つかっておらず、一番有効な対処法は「ネッタイシマカに刺されないこと」というのが現状です。カに刺されない方法として簡単に考えられるのは、蚊帳や蚊取り線香で蚊を寄せ付けないことですよね。一方で研究の世界では、もっと大胆に「ネッタイシマカ自体を減らしてしまおう」という試みもさまざまな方法で行われています。しかし、残念ながらそのどれもが成功には至っていません。

 さて、ここからが今週の本題です。デング熱を媒介するネッタイシマカ、これを減らすひとつの方法として、最近イギリスのOXITEC社から遺伝子組換え蚊を利用する方法が発表されたのです。賛否両論ある中で、遺伝子組換え作物の使用は世界的に広がっています。しかし、植物でなく、遺伝子組換え昆虫を応用することが考えられていることは、遺伝子を扱う研究を行っている私にとっても驚きでした。そこで、これはいったいどんな方法なのかを私なりに調べてみることにしました。
 

■どうして遺伝子組換え蚊で野生の蚊の数まで減らすことができるのカ?

 OXITEC社が発表した遺伝子組換え蚊は、子孫を残すことができなくなるように遺伝子を操作されたオスの蚊です。このオ
スはメスとつがうことで子をつくることはできるのですが、その子の半分は父親から受け継いだ遺伝子のせいで、成虫に成長する前に死んでしまうのです。この遺伝子組換え蚊を自然界に放すと、野生のメスの蚊とつがいます。しかし、生まれた子が成長できずに死んでしまうため、だんだんと世代を重ねるごとに蚊の総数は減少していくのです。
それでは、そのような性質を持った遺伝子組換え蚊、どうやって作りだすのでしょうか?


■子孫を残せない遺伝子組換え蚊はどのように作られたのカ?

 OXITEC社が発表した蚊の遺伝子組換えには、「tetO7」というDNA配列に「tTAV」という人工的に作られた遺伝子のDNA配列をつないだものが使用されています。このDNAを溶かした液を、もの凄く細い針で蚊の卵に注入することで、遺伝子組換え蚊を作ることができます。
それでは、導入されたDNA配列は蚊の中でどのような働きをするのか見てみましょう。蚊の体内では導入された遺伝子の働きで、tTAVタンパク質が作られます。このtTAVタンパク質はtetO7配列につながっている遺伝子の発現を活性化させる性質があります。つまり今回の場合、tetO7配列につながっている遺伝子、tTAVの発現が活性化され、tTAVタンパク質がどんどん増えていくことになります。しかも、このtTAVタンパク質、体内に大量に存在すると、蚊は死んでしまうのです。
 要するに、この遺伝子組換え蚊はtTAVタンパク質の働きのせいで、通常だと死んでしまいます。このままでは、ただ死んでいく蚊をつくりだしたことになり、野生の蚊とつがいをつくることはありません。これでは、野生の蚊の数を減らすことはできませんよね。ここで登場するのが、抗生物質の一種であるテトラサイクリンです。実はtTAVタンパク質はテトラサイクリンが存在すると上手く働かなくなるのです。だから、この遺伝子組換え蚊にテトラサイクリンを与えることで、生き残らせることができるのです。
 こうしてできた蚊を、テトラサイクリンを与えながら成長させ、繁殖できるようになったところで自然界に放すと、野生のメスとつがい、子供を作ります。しかし、その子供はテトラサイクリンを与えられることがないので死んでしまう、というのが今回OXITEC社の発表したネッタイシマカ撲滅作戦の全貌です。
 
 遺伝子組換え蚊を利用したネッタイシマカ対策、ちょっと難しくなってしまったかもしれませんが、何となくわかってもらえましたか?この遺伝子組換え蚊、今後実用に向けて研究が進められていくようです。さらに、ネッタイシマカだけではなく、デング熱と同じように危険な感染症であるマラリアを媒介するハマダラカへの応用も検討されているようです。確かにこの技術を利用すれば、今までなかなか撲滅することができなかった感染症を撲滅することができるかもしれません。
 

 さて、今回紹介したOXITEC社の発表、皆さんはどう思いましたか?私は始め、遺伝子組換え蚊による蚊の撲滅というニュースを見たとき、そんなことしていいのかな?と漠然と感じていました。ですが、少し詳しく調べてみると、この遺伝子組換え蚊はテトラサイクリンという物質がなければ生きられないので自然界では長く生きることができない、ということが分かりました。それなら、感染症を防ぐためにこういう方法を使うのもありなのかな?と今では思っています。
 日本において、遺伝子組換え技術というものは、頭から否定する傾向があるように感じます。しかし、遺伝子組換え技術が良くも悪くも画期的なもので、これを応用したものが今後も世界で広がっていくのは間違いないと思います。そんな中で、私たちはその応用が、いいものなのか、それとも悪いものなのか、判断していかなくてはなりません。その時に必要なのは、その技術についてある程度知っておくことだと私は思います。
 ということで、みなさん遺伝子組換えについて、今のうちから少し勉強しておきませんか?遺伝子、勉強してみると結構おもしろいですよ。


参考文献
OXITEC社HP
 http://www.oxitec.com/
アメリカ疾病予防管理センターHP
http://www.cdc.gov/
A dominant lethal genetic system for autocidal control of the Mediterranean fruitfly
Peng Gong, et al.
Nature biotechnology 2005, 4, 23, 453-456

High efficiency site-specific genetic engineering of the mosquito genome
D. D. Nimmo, et al.
Insect Molecular Biology 2006, 15, 2, 129-136

Late-acting dominant lethal genetic systems and mosquito control
Hoang Kim Phuc, et al.
BMC Biology 2007, 5:11



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