サンゴが作る海の楽園
明けましておめでとうございます。リバネス九州の仲栄真です。
新しい年になりましたが、年末年始を皆さんはどう過ごしましたか?私は実家のある沖縄へと帰り、家族とゆっくりしながら年を越しました。
ところで皆さんは沖縄と聞いて何を連想しますか?やはり沖縄と聞けば白い砂浜とサンゴ礁が広がるきれいな青い海を思い浮かべる人が多いと思います。
私は大学に入ってからダイビングをはじめたのですが、それ以来、夏なると必ず沖縄の海に潜るようになりました。初めて潜ったときの沖縄の海は信じられないほど青く透き通っていて、サンゴ礁が広がる海を色鮮やかな生き物たちが所狭しと泳いでおり、まさに海の楽園といった感じでした。
そんな海から上がったときに、「なんで沖縄の海にはこんなにたくさんの生き物たちがいるのだろう?」と、ふと疑問に思いました。その後調べてみると、そこにはある生き物がカギをにぎっていることがわかったのです。
ということで今回は、海の楽園がどのようにして生まれるのかについて迫っていきたいと思います。
■沖縄の海は栄養不足?
年中暖かい沖縄の島々は、熱帯・亜熱帯という気候帯に属します。この地域は気温が高いので、空気に接する海水面の水温が高くなります。すると温められた海水が軽くなって表層にたまってしまい、冷たくて重い深層の海水と循環するための対流が起こりません。そのため、栄養分を多く含む深層の海水と混ざり合わず、表層の海水は栄養分に乏しい状態(貧栄養状態)になってしまいます。
貧栄養状態になると、海水中に浮遊する有機物やそれを餌にして生きるプランクトンの数が減ってしまいます。その結果、熱帯・亜熱帯の海は透明度が高いという特徴を持つ一方で、プランクトンを食べる魚たちをはじめとする大きな生き物たちの数も少ないのです。
私が沖縄の海に潜ったときには、確かに海水の透明度は高く、なんと30m以上先まで見通せるほどでした。そして、あたり一面に白い砂地が広がる海では、ほんの少ししか生き物に出会うことができませんでした。
ところが、ある海域では、砂地とは違って色とりどりの生き物たちをたくさん見ることができたのです。実は、この違いを生む原因として、その海域に住むある生き物がカギを握っていました。その生き物とは、皆さんもご存知の「サンゴ」という生き物です。
実際に潜ってみると、サンゴの住むサンゴ礁域の海では、色とりどりの生き物たちをたくさん見ることができ、とても生き物が少ない状態とは思えませんでした。
これはいったいどうしてでしょう?多くの生き物が住む環境にサンゴがどのように関わっているのか、ここからはサンゴと海の楽園の関係について迫っていきます!


■サンゴってどんな生き物?
そもそも皆さんはサンゴがどのような生き物かご存知ですか?ここでサンゴが生き物であることをはじめて知ったという人もいるかもしれませんね。その昔、サンゴは植物または鉱石の一種だと思われていたそうですが、サンゴもりっぱな動物なんですよ!まずはサンゴがどんな生き物なのかを見ていきましょう。
サンゴはイソギンチャクやクラゲと同じ刺胞動物に分類され、その本体は小さなイソギンチャクのような形をしています。このような形をしたサンゴの成体を「ポリプ」といい、サンゴは通常このポリプがたくさん集まった群体を形成して暮らしています。

図1:ポリプ
そしてサンゴの最大の特徴として、体内に「褐虫藻」と呼ばれる別の生き物が住んでいることがあげらます。褐虫藻はポリプの体内に住むことで外敵から身を守る家を手に入れました。そしてサンゴの排泄物であるリンや窒素などの化合物を取り込むことで、貧栄養状態である熱帯・亜熱帯の海において栄養分を確保しているのです。また、褐虫藻は太陽の光を浴びて光合成を行っており、光合成に必要な二酸化炭素もサンゴが呼吸により排出したものを使っています。
一方、サンゴの方はというと、褐虫藻が光合成により作った栄養分のほとんどを受け取り、自らの成長や呼吸などに使用しています。ところが、下の図を見てもらうとわかるように、サンゴはせっかく褐虫藻から受け取った栄養分の約半分を体外に放出しているのです。

図2:サンゴと褐虫藻の栄養分のやりとり
■サンゴが生む海の楽園
褐虫藻からもらった栄養分の約半分を、サンゴはいったいなんのために体外に放出しているのでしょうか?
サンゴは受け取った栄養分の約半分を使って「粘液」を作り、それを口の周りなどから分泌して体外に放出します。分泌された粘液はサンゴの体を覆い、海中で巻き上げられた小さな砂つぶなどの塵がある程度降り積もるとはがれてしまいます。するとサンゴはまた新しい粘液を分泌して再び体を覆います。そうすることで降り積もった塵が太陽の光を遮り、褐虫藻の光合成を邪魔しないようにしていたのです。粘液は、褐虫藻が光合成する環境を整えるために作られた、汚れたら脱ぎ捨てる使い捨ての洋服だったんですね。
そしてこの脱ぎ捨てられた粘液には、褐虫藻が作ってくれたタンパク質や糖類などの栄養分が含まれています。そのため、粘液を餌にしようとバクテリアやカニ、エビなどの小さな生き物が集まります。そして粘液に集まった小さな生き物を餌にしようと、魚たちをはじめとする他の大きな生き物たちも集まり、食物連鎖が進むのです。
そんなサンゴの住むサンゴ礁域は、海洋全体の面積の0.1%程度しかないにもかかわらず、海水魚のたくさんある種類のうち、なんと3分の1以上の種類が見られるほどの多様性を持っています。また、世界の漁獲高の10%がサンゴ礁域の漁業によって占められるほど、たくさんの生き物たちが住んでいるのです。
このように、栄養分の少ない熱帯・亜熱帯の海で多くの生き物たちが暮らす海の楽園が存在するのは、サンゴと褐虫藻の共生関係と、栄養分を粘液として放出するサンゴの働きがあるからなのです。
■体験を通して新しい世界を切り開く!

サンゴの白化
近年、沖縄を初めとする世界のサンゴ礁域でサンゴの白化現象が報告されています。白化したサンゴの中には無事に回復したものもいますが、それでも多くのサンゴが死んでしまいました。サンゴが死ぬと、もちろんそこに住む他の生き物たちにも影響が出てきます。
私も昨年の夏に沖縄の海に潜った際に、実際にあたり一面白化したサンゴたちに遭遇しました。そしてサンゴに住むたくさんの生き物に出会うだけでなく、死んでいくサンゴの姿を自分の目で見た体験から、いつしか大好きな沖縄の海を守るための研究がしたいと思うようになりました。
自分の体験から得た感動が行動につながり、新しい世界を切り開くものだと私は信じています。いろいろなことを体験することで得た感動が新しい世界を切り開き、皆さんの可能性がきっと広がるはずです。そのために、いろんなことを体験する機会を増やしてみてはいかがでしょう。
【参考文献】
『サンゴとサンゴ礁のおはなし 南の海のふしぎな生態系』 著者 本川達雄 中央公論新社
『海洋微生物の分子生態学入門』 著者 石田祐三郎 培風館
『生物海洋学入門 第2版』 監訳 關 文威 訳 長沼毅 講談社サイエンティフィク
新しい年になりましたが、年末年始を皆さんはどう過ごしましたか?私は実家のある沖縄へと帰り、家族とゆっくりしながら年を越しました。
ところで皆さんは沖縄と聞いて何を連想しますか?やはり沖縄と聞けば白い砂浜とサンゴ礁が広がるきれいな青い海を思い浮かべる人が多いと思います。
私は大学に入ってからダイビングをはじめたのですが、それ以来、夏なると必ず沖縄の海に潜るようになりました。初めて潜ったときの沖縄の海は信じられないほど青く透き通っていて、サンゴ礁が広がる海を色鮮やかな生き物たちが所狭しと泳いでおり、まさに海の楽園といった感じでした。
そんな海から上がったときに、「なんで沖縄の海にはこんなにたくさんの生き物たちがいるのだろう?」と、ふと疑問に思いました。その後調べてみると、そこにはある生き物がカギをにぎっていることがわかったのです。
ということで今回は、海の楽園がどのようにして生まれるのかについて迫っていきたいと思います。
■沖縄の海は栄養不足?
年中暖かい沖縄の島々は、熱帯・亜熱帯という気候帯に属します。この地域は気温が高いので、空気に接する海水面の水温が高くなります。すると温められた海水が軽くなって表層にたまってしまい、冷たくて重い深層の海水と循環するための対流が起こりません。そのため、栄養分を多く含む深層の海水と混ざり合わず、表層の海水は栄養分に乏しい状態(貧栄養状態)になってしまいます。
貧栄養状態になると、海水中に浮遊する有機物やそれを餌にして生きるプランクトンの数が減ってしまいます。その結果、熱帯・亜熱帯の海は透明度が高いという特徴を持つ一方で、プランクトンを食べる魚たちをはじめとする大きな生き物たちの数も少ないのです。
私が沖縄の海に潜ったときには、確かに海水の透明度は高く、なんと30m以上先まで見通せるほどでした。そして、あたり一面に白い砂地が広がる海では、ほんの少ししか生き物に出会うことができませんでした。
ところが、ある海域では、砂地とは違って色とりどりの生き物たちをたくさん見ることができたのです。実は、この違いを生む原因として、その海域に住むある生き物がカギを握っていました。その生き物とは、皆さんもご存知の「サンゴ」という生き物です。
実際に潜ってみると、サンゴの住むサンゴ礁域の海では、色とりどりの生き物たちをたくさん見ることができ、とても生き物が少ない状態とは思えませんでした。
これはいったいどうしてでしょう?多くの生き物が住む環境にサンゴがどのように関わっているのか、ここからはサンゴと海の楽園の関係について迫っていきます!


■サンゴってどんな生き物?
そもそも皆さんはサンゴがどのような生き物かご存知ですか?ここでサンゴが生き物であることをはじめて知ったという人もいるかもしれませんね。その昔、サンゴは植物または鉱石の一種だと思われていたそうですが、サンゴもりっぱな動物なんですよ!まずはサンゴがどんな生き物なのかを見ていきましょう。
サンゴはイソギンチャクやクラゲと同じ刺胞動物に分類され、その本体は小さなイソギンチャクのような形をしています。このような形をしたサンゴの成体を「ポリプ」といい、サンゴは通常このポリプがたくさん集まった群体を形成して暮らしています。

図1:ポリプ
そしてサンゴの最大の特徴として、体内に「褐虫藻」と呼ばれる別の生き物が住んでいることがあげらます。褐虫藻はポリプの体内に住むことで外敵から身を守る家を手に入れました。そしてサンゴの排泄物であるリンや窒素などの化合物を取り込むことで、貧栄養状態である熱帯・亜熱帯の海において栄養分を確保しているのです。また、褐虫藻は太陽の光を浴びて光合成を行っており、光合成に必要な二酸化炭素もサンゴが呼吸により排出したものを使っています。
一方、サンゴの方はというと、褐虫藻が光合成により作った栄養分のほとんどを受け取り、自らの成長や呼吸などに使用しています。ところが、下の図を見てもらうとわかるように、サンゴはせっかく褐虫藻から受け取った栄養分の約半分を体外に放出しているのです。

図2:サンゴと褐虫藻の栄養分のやりとり
■サンゴが生む海の楽園
褐虫藻からもらった栄養分の約半分を、サンゴはいったいなんのために体外に放出しているのでしょうか?
サンゴは受け取った栄養分の約半分を使って「粘液」を作り、それを口の周りなどから分泌して体外に放出します。分泌された粘液はサンゴの体を覆い、海中で巻き上げられた小さな砂つぶなどの塵がある程度降り積もるとはがれてしまいます。するとサンゴはまた新しい粘液を分泌して再び体を覆います。そうすることで降り積もった塵が太陽の光を遮り、褐虫藻の光合成を邪魔しないようにしていたのです。粘液は、褐虫藻が光合成する環境を整えるために作られた、汚れたら脱ぎ捨てる使い捨ての洋服だったんですね。
そしてこの脱ぎ捨てられた粘液には、褐虫藻が作ってくれたタンパク質や糖類などの栄養分が含まれています。そのため、粘液を餌にしようとバクテリアやカニ、エビなどの小さな生き物が集まります。そして粘液に集まった小さな生き物を餌にしようと、魚たちをはじめとする他の大きな生き物たちも集まり、食物連鎖が進むのです。
そんなサンゴの住むサンゴ礁域は、海洋全体の面積の0.1%程度しかないにもかかわらず、海水魚のたくさんある種類のうち、なんと3分の1以上の種類が見られるほどの多様性を持っています。また、世界の漁獲高の10%がサンゴ礁域の漁業によって占められるほど、たくさんの生き物たちが住んでいるのです。
このように、栄養分の少ない熱帯・亜熱帯の海で多くの生き物たちが暮らす海の楽園が存在するのは、サンゴと褐虫藻の共生関係と、栄養分を粘液として放出するサンゴの働きがあるからなのです。
■体験を通して新しい世界を切り開く!

サンゴの白化
近年、沖縄を初めとする世界のサンゴ礁域でサンゴの白化現象が報告されています。白化したサンゴの中には無事に回復したものもいますが、それでも多くのサンゴが死んでしまいました。サンゴが死ぬと、もちろんそこに住む他の生き物たちにも影響が出てきます。
私も昨年の夏に沖縄の海に潜った際に、実際にあたり一面白化したサンゴたちに遭遇しました。そしてサンゴに住むたくさんの生き物に出会うだけでなく、死んでいくサンゴの姿を自分の目で見た体験から、いつしか大好きな沖縄の海を守るための研究がしたいと思うようになりました。
自分の体験から得た感動が行動につながり、新しい世界を切り開くものだと私は信じています。いろいろなことを体験することで得た感動が新しい世界を切り開き、皆さんの可能性がきっと広がるはずです。そのために、いろんなことを体験する機会を増やしてみてはいかがでしょう。
【参考文献】
『サンゴとサンゴ礁のおはなし 南の海のふしぎな生態系』 著者 本川達雄 中央公論新社
『海洋微生物の分子生態学入門』 著者 石田祐三郎 培風館
『生物海洋学入門 第2版』 監訳 關 文威 訳 長沼毅 講談社サイエンティフィク
