理系大学生・大学院生によるサイエンスのおはなし

リバコミ!
Feb
20

氷から読み解く地球の歴史

こんにちは、環野です。私は地球環境の中の海の役割について研究しています。船を出したり、海に潜ったり、危険を伴う私の研究を手伝ってくれるのは、ベテランの技術職員さんです。とってもパワフルなその人は、南極の越冬隊員をしたこともあり、折にふれてペンギンと一緒に写真を撮った時のお話などをしてくれます。雪の積もる地域に住んだことのない私にとって一面の銀世界である南極はちょっぴり憧れの場所。今日はそんな南極で行われている研究のお話をしたいと思います。

■氷でできた大陸、南極

 南極は、岩盤の上に長い長い年月をかけて雪が降り積もり、その重みで雪が氷に変化して積み重なった「氷床」でできています。この氷の大陸は約4900万年前からできはじめ、約3500万年前から今の形のような氷床ができたと言われています。地球は水の惑星ですが、その表面積の約70%は塩分を含む海です。残りの表面積の中でわずかな部分を占めるのが、陸上の河川など、淡水が存在する場所なのですが、何とその淡水の99%が、この南極と北極の氷床で占められていると言われています。その規模の大きさがうかがえますね。南極にはいくつもの「ドーム」と呼ばれる山があります。ドームは南極の中でも、特に高く雪が降り積もった場所で、高いものでは3000m以上の雪が、氷となって積み重なっています。このドーム、実は地球の環境を研究している科学者にとって、重要なものなのです。

■氷に潜む太古の地球

 ドームは雪が氷に変化しながら積み重なったもの、と書きました。雪が氷に変わる過程のことを考えてみてください。雪はユニークな結晶になって地上に降りてきます。この雪が積み重なったとき、結晶はくっつきあって、より丸く、大きくなっていきます。この状態は「フィルン」と呼ばれ、このフィルンをつくるとき、結晶と結晶の間には隙間ができます。フィルンは約550kg/m3以下の密度から形成される雪と氷の中間のようなものです。氷となる550kg/ m3のあたりになると隙間がだんだん小さくなっていき、800kg/m3となったときには、隙間は周囲と隔離されます(下図)。この隙間の中にはこの時にできた気泡がそのまま閉じ込められ、それが何万年も残ることになります。その時に空気中に舞ったダストなども一緒に閉じ込められています。つまり、この南極の氷床の中には太古の大気が閉じ込められているのです。この気泡が作られた年代を特定し、この中の成分や温度、ダストを分析できれば、太古の大気環境がわかり、その結果から当時の地球の環境が推定できるのです。

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そこで、各国では競って南極へ研究者を派遣して、このドームから氷床のサンプル(氷床コア)を採掘し、分析を進めています。雪の圧力によって、氷のでき方が変わってくるので、深さと年代は必ずしも比例関係ではありませんが、深く掘れば掘るほど、より大昔の大気のサンプルを得られる可能性があります。今現在、最古の氷床コアを採掘しているのは、フランスとイタリアの共同チームです。3270mの地下から約74万年前の氷を採掘しました。日本では、「ふじ」と名づけたドームの採掘を進めています。2007年の時点で、3035m、約72万年前の氷床コアの採掘がおこなわれました。これらの作業で1回に取り出せる氷床コアの長さは3.9m。掘削場となる地下室は、氷が溶けないように-20℃に保っています。3000mの長さになると1回ドリルを上げ下げするだけで3時間はかかるので、厳しい環境の中での非常に地道な活動になります。

■氷は何を語るのか?

 こうして採掘された氷床コアからは、様々なことがわかってきました。氷床コアの中の気泡は、水に溶かしたり、氷を削っていくことによって抽出できます。この空気の年代は、様々な要因から特定されます。まずは、季節的に変化のある元素の安定同位体*1の組成や海の成分がどれだけ含まれているのか、といった情報を解析する方法が1つ挙げられます。また、核実験を行った年に人工的に大気中に飛散した核由来の元素や、火山活動が起こった年に飛んでくる火山灰など、突発的な事象から得られる物質によって特定の年代がわかります。さらには、時間を経るごとに減少していく放射性同位体*2などを用いることもできます。また、氷床はその圧力によってゆっくりとした移動を進め、やがては海の氷山となります。その移動速度と移動距離を調べることによっても、年代を特定することができます。今はレーダーを用いて一番最後の方法から年代を特定することが多いようです。
 
この年代を測定した氷床コアからは、地球の歴史が読み取れます。その時代の気温、二酸化炭素の濃度、太陽の活動、降水量などが、この氷床に閉じ込められた物質から明らかになるのです。ですから氷床コアは地球環境の化石ともいえますね。たとえば、ドーム「ふじ」の氷床からは、過去34万年の間に、10万年ごとに3回の氷期と間氷期が繰り返されていることが明らかになりました。これは、他の氷床コアで得られた結果とも一致しています。また、氷床コアの研究が近年果たした一番の成果は、地球温暖化の推移を明らかにしたことです。氷床コアの中で、温室効果ガスである二酸化炭素やメタンの濃度を調べてみると、産業革命までの34万年間で190ppmから293ppmへの上昇を見せています。一方で、産業革命の時代から200年間で二酸化炭素濃度は急激に上昇し、現在380ppm*3。たった200年間で34万年間の濃度の上昇に匹敵します。ここから、現在の二酸化炭素濃度が異常に高いことがわかります。しかも、物質の起源を特定することにより、これらの急上昇した二酸化炭素が、人為的な出来事によって生まれたことがわかっています。この成果は地球温暖化が確実に起こっていることを示す出来事として、IPCCの調査報告書にも用いられています。(IPCCについて、詳しくはこちら http://livacomi.jp/item_2183.html )

遠い遠い過去の地球の環境について、南極の深い深い氷の中の、ほんの小さな泡から知ることができる。なんだかとってもロマンティックですね。そのロマンを求めて、厳しい環境の中で地道な作業を続ける、そんな冒険心にあふれているのが研究者や、それをサポートしてくれる技術職員の人々なのです。みなさんも、極地から届けられる新しい発見に、注目してみてくださいね。


*1安定同位体 同じ元素の中で重さが違うもの同士のこと。たとえば炭素(C)には、自然界に約99%存在する重さが12のCと約1%の重さ13のCがある。自然界では地域や環境、生物体の違いによってこの12のCと13のCの存在比がわずかに異なっており、その存在比の違いからその物質の起源を特定できる
(安定同位体を用いた研究例はこちら http://livacomi.jp/item_1225.html

*2 放射性同位体 
安定同位体と同じく、同じ元素で重さの違う元素の中で、不安定な構造のため時間とともにより安定な原子に変化していく物質。たとえば炭素(C)の放射性同位体は重さが14だが、これは時間とともに重さが14の窒素(N)に変化する。この減少速度と減少量から、最初の段階からどれくらい時間がたったのか推定することができる。

*3 380ppm
近年の二酸化炭素濃度の測定はハワイのマウナロワで行われている大気の測定値を標準とするため、上記もそれに従った。

<参考文献>
南極氷床、ドームふじコアから読む地球気候、環境変動
渡辺興亜 藤井理行 神山孝吉 地学雑誌 111(6)856-867 2002

地質時代の気候から見た現在 増田富士雄 地学雑誌114(1)87-90 2005

スケールハンドブックp16-19(地下展UNDERGROUND空想と科学がもたらす闇の冒険)日本科学未来館企画・編集 2007

国立極地研究所HP 
http://polaris.nipr.ac.jp/~academy/science/hyosyo/index.html

東北大学理学研究科大気海洋変動観測研究センター物質循環学分野HPhttp://tgr.geophys.tohoku.ac.jp/index.php?option=com_content&task=view&id=26&Itemid=44

Newton 特集 雪と氷の科学 31-39 2009年

Evidence for general instability of past climate from a 250-kr ice-core record
W.Dansgard, S.J. Johnson, H.B. Clausen et. al., Nature Vol.364 218-220 15 July 1993


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