-第2回- 恩賜賞受賞 「人工臓器はできるのか!?」
こんにちは。衛藤です。前回に続いての学術賞特集。今回ご紹介するのは、恩賜賞を受賞した浅島誠先生です。恩賜賞というのは、日本学士院賞の中でも、特に優れた研究に贈られる賞です。浅島先生が研究するのは、発生学。私たち生き物の体をたった1つの細胞である受精卵から作り上げていくメカニズムを研究する学問です(発生学に関する記事→http://livacomi.jp/item_2582.html)。
私たちの体は、手足や、顔にある目・鼻・口、臓器である心臓や消化管などの「器官」を持っていますが、これらはどのような仕組みによって作られるのでしょうか。例えば私たちの手足を見てみましょう。それは筋肉・骨・神経など沢山の「組織」からできていて、それが組み合わさって手足は動きます。このように、器官というのは複雑にできており、それを形作るためには複雑な仕組みが働いていそうです。浅島先生はそんな器官の「形作り」を試験管やお皿の中で再現する研究をされています。
■ 試験管の中で器官を作る
浅島先生は、私たちの持つ多くの器官を、試験管の中で作り出しました。その実験をご紹介しましょう。
実験にはカエルの胚が使われました。胚というのは、卵の中にいて、やがてオタマジャクシになるものです。この胚の一部にアニマルキャップと呼ばれる組織があります。浅島先生はこの組織を取り出し、「アクチビン」と呼ばれるタンパク質を加えて培養しました。すると、驚くべき事に心臓ができあがったのです。さらに、この「アクチビン」の濃度を変えたり、他の因子と組み合わせたりすることで、心臓や腎臓、すい臓などの16種類にも及ぶ器官を作り出すことに成功しました。
例を紹介すると、図1のように、先ほどの組織に単純な処理を加えるだけで、心臓や腎臓など、複雑な形やはたらきを持つ器官を作ることができました。

さらに、その人工臓器をカエル胚に移植することで、体に心臓を二つ作ることができたり、腎臓の機能が失われたオタマジャクシを正常化させたりすることができました。はたらきを持った人工臓器を作ることができたのです。では、ヒトではどうでしょう。医療へ応用することができたら、私たちが病気や事故で機能を失った臓器を取り戻すことができるかもしれません。
しかし、そこには大きな壁がありました。それは臓器を「立体的に」作るということです。カエルなどの両生類では立体的な臓器を作ることに成功していたのに対し、哺乳類では成功していませんでした 。例えば、万能細胞と言われるES細胞が、心臓や腎臓を含めて沢山の種類の組織を作れることがわかってきましたが、立体的な臓器は作ることは難しいと言われています。
最近になって、マウスES細胞で人工臓器を作ることに成功した例が出てきていますが、浅島先生はその立体的な臓器再生のメカニズムの手掛かりとなるような研究を、15年以上も前から温め、それを今まさに実現しています。そのホットなニュースをお伝えしましょう。
■ カエルの細胞、宇宙へ
2009年3月、浅島先生はカエルの腎臓の細胞を宇宙へと打ち上げました。日本人宇宙飛行士、若田光一さんらによって、その細胞を使って国際宇宙ステーションにて実験が行なわれました。カエルの細胞での、立体的な臓器形成のメカニズムの手がかりを得るためです。
その実験に使われたのは、カエルの腎臓の細胞からとったA6細胞です。この細胞はお皿の上で培養すると、集まって「ドーム構造」と呼ばれる立体的な形を作ります(図2.A)。この構造は他の臓器からとってきた細胞では見られませんが(B)、生き物の中にある実際の腎臓の組織の形と似ていることから、A6細胞は生き物の持つ立体的な形作りを調べるために適していると言えます。
そして、このA6細胞は地上で作り出した微小重力下の実験では、ドーム構造を作ることができませんでした。ただ、この実験は人工的に作り出した微小重力下でのお話です。本当の無重力である宇宙ではどのような結果が得られるかわからないので、この細胞を宇宙へ飛ばそうと考えたのです。
宇宙においてそれらの細胞がどのような形を作り、また遺伝子レベルではどのように変化するか追うことで、立体的な臓器形成の手がかりを得られるかもしれません。

その実験データはつい数日前に地球に到着しており、今後浅島先生のグループで解析される予定です。カエルの細胞が宇宙ではどのようにその振舞いを変化させているのか、詳しい結果がとても楽しみです。この研究をスタートとして、両生類の立体的な形を作る仕組みが明らかになれば、それが手助けとなって、いつかヒトでも臓器再生ができるようになるかもしれません。
■研究スタイル〜身近な自然に不思議を感じることの大切さ〜
浅島先生の研究は宇宙まで広がり、宇宙と生き物を結びつける試みをされています。このような研究からは、先生の自然への幅広い興味が感じられました。今でも先生の研究室では毎年、研究材料であるカエルを山や田んぼに取りに出掛けるそうです。自然の中の生き物を観察し、満天の星空を見る。そのような身近な自然の中で不思議を見つけ、信念を持って探求していく姿勢が、新しい発見につながっていくのだということを強く感じました。
<参考文献>
発生メカニズムのダイナミクス 上野直人・八杉貞雄・野地澄晴編集
浅島誠研究室HP http://xenopus.c.u-tokyo.ac.jp/
JAXA 宇宙航空研究開発機構HPより生命科学実験の内容
http://kibo.jaxa.jp/experiment/theme/first/domegene/
哺乳類における臓器再生
東京大学医科学研究所より2008/3/12
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/research/newspaper/es.php
山陽新聞WebNewsより2009/3/4 http://www.sanyo.oni.co.jp/newsk/2009/03/04/20090304010006251.html
私たちの体は、手足や、顔にある目・鼻・口、臓器である心臓や消化管などの「器官」を持っていますが、これらはどのような仕組みによって作られるのでしょうか。例えば私たちの手足を見てみましょう。それは筋肉・骨・神経など沢山の「組織」からできていて、それが組み合わさって手足は動きます。このように、器官というのは複雑にできており、それを形作るためには複雑な仕組みが働いていそうです。浅島先生はそんな器官の「形作り」を試験管やお皿の中で再現する研究をされています。
■ 試験管の中で器官を作る
浅島先生は、私たちの持つ多くの器官を、試験管の中で作り出しました。その実験をご紹介しましょう。
実験にはカエルの胚が使われました。胚というのは、卵の中にいて、やがてオタマジャクシになるものです。この胚の一部にアニマルキャップと呼ばれる組織があります。浅島先生はこの組織を取り出し、「アクチビン」と呼ばれるタンパク質を加えて培養しました。すると、驚くべき事に心臓ができあがったのです。さらに、この「アクチビン」の濃度を変えたり、他の因子と組み合わせたりすることで、心臓や腎臓、すい臓などの16種類にも及ぶ器官を作り出すことに成功しました。
例を紹介すると、図1のように、先ほどの組織に単純な処理を加えるだけで、心臓や腎臓など、複雑な形やはたらきを持つ器官を作ることができました。

さらに、その人工臓器をカエル胚に移植することで、体に心臓を二つ作ることができたり、腎臓の機能が失われたオタマジャクシを正常化させたりすることができました。はたらきを持った人工臓器を作ることができたのです。では、ヒトではどうでしょう。医療へ応用することができたら、私たちが病気や事故で機能を失った臓器を取り戻すことができるかもしれません。
しかし、そこには大きな壁がありました。それは臓器を「立体的に」作るということです。カエルなどの両生類では立体的な臓器を作ることに成功していたのに対し、哺乳類では成功していませんでした 。例えば、万能細胞と言われるES細胞が、心臓や腎臓を含めて沢山の種類の組織を作れることがわかってきましたが、立体的な臓器は作ることは難しいと言われています。
最近になって、マウスES細胞で人工臓器を作ることに成功した例が出てきていますが、浅島先生はその立体的な臓器再生のメカニズムの手掛かりとなるような研究を、15年以上も前から温め、それを今まさに実現しています。そのホットなニュースをお伝えしましょう。
■ カエルの細胞、宇宙へ
2009年3月、浅島先生はカエルの腎臓の細胞を宇宙へと打ち上げました。日本人宇宙飛行士、若田光一さんらによって、その細胞を使って国際宇宙ステーションにて実験が行なわれました。カエルの細胞での、立体的な臓器形成のメカニズムの手がかりを得るためです。
その実験に使われたのは、カエルの腎臓の細胞からとったA6細胞です。この細胞はお皿の上で培養すると、集まって「ドーム構造」と呼ばれる立体的な形を作ります(図2.A)。この構造は他の臓器からとってきた細胞では見られませんが(B)、生き物の中にある実際の腎臓の組織の形と似ていることから、A6細胞は生き物の持つ立体的な形作りを調べるために適していると言えます。
そして、このA6細胞は地上で作り出した微小重力下の実験では、ドーム構造を作ることができませんでした。ただ、この実験は人工的に作り出した微小重力下でのお話です。本当の無重力である宇宙ではどのような結果が得られるかわからないので、この細胞を宇宙へ飛ばそうと考えたのです。
宇宙においてそれらの細胞がどのような形を作り、また遺伝子レベルではどのように変化するか追うことで、立体的な臓器形成の手がかりを得られるかもしれません。

その実験データはつい数日前に地球に到着しており、今後浅島先生のグループで解析される予定です。カエルの細胞が宇宙ではどのようにその振舞いを変化させているのか、詳しい結果がとても楽しみです。この研究をスタートとして、両生類の立体的な形を作る仕組みが明らかになれば、それが手助けとなって、いつかヒトでも臓器再生ができるようになるかもしれません。
■研究スタイル〜身近な自然に不思議を感じることの大切さ〜
浅島先生の研究は宇宙まで広がり、宇宙と生き物を結びつける試みをされています。このような研究からは、先生の自然への幅広い興味が感じられました。今でも先生の研究室では毎年、研究材料であるカエルを山や田んぼに取りに出掛けるそうです。自然の中の生き物を観察し、満天の星空を見る。そのような身近な自然の中で不思議を見つけ、信念を持って探求していく姿勢が、新しい発見につながっていくのだということを強く感じました。
<参考文献>
発生メカニズムのダイナミクス 上野直人・八杉貞雄・野地澄晴編集
浅島誠研究室HP http://xenopus.c.u-tokyo.ac.jp/
JAXA 宇宙航空研究開発機構HPより生命科学実験の内容
http://kibo.jaxa.jp/experiment/theme/first/domegene/
哺乳類における臓器再生
東京大学医科学研究所より2008/3/12
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/research/newspaper/es.php
山陽新聞WebNewsより2009/3/4 http://www.sanyo.oni.co.jp/newsk/2009/03/04/20090304010006251.html
